人事労務Q&A(その3)

(質問)

当社では通勤手段の規程の中に今迄「自転車通勤」に関して特に定めを設けていませんでした。
今回新たに設けようと思いますが、留意する点がありましたら、ご教示お願いします。

(回答)

最近、朝夕の通勤時に、自動車やバイクに混じって、颯爽と自転車で通り過ぎていく人をよく見かけるようになりました。エコブームや健康意識の高まりから自転車を利用する人が増加し、自宅から会社まで自転車を利用して通勤する人も増加傾向にあるようです。また、企業PRの一環として会社も自転車通勤を認め、奨励するケースもでてきているようです。他方、自転車利用者の増加に伴い自転車事故の件数も増加しており自転車通勤には非常に高いリスクが伴います。
現在、既に、自転車通勤する労働者がいる場合。また、今後、会社として自転車通勤を認めようとしている場合、会社としてはリスク管理のため、社内ルール等を整備する必要があります。

■自転車通勤を認める場合の労務管理上の留意点

1.なんといっても通勤途上の通勤災害と事故への対策
【通勤災害として認められるための「通勤」とは】

通勤途上で事故に遭った場合、通勤災害となるか否かという問題がまず心配されます。労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という)の通勤災害として認められるか否かは、次の「通勤の定義」にあてはまるかどうかで判断されます。

<通勤の定義>
※通勤災害における「通勤」とは、労働者が就業に関し次の要件のいずれかに該当し、かつ合理的な経路および方法により行い、業務の性質を有するものを除くものとされています。
(1)住居と就業の場所との間の往復
(2)就業の場所から他の就業の場所への移動
(3)単身赴任先住居と帰省先住居との間の移動
自転車通勤者の場合、比較的通勤途上において行動が自由であることが予想されます(手軽である、どこでも停められる等)。会社は、自転車通勤を希望する労働者に対して、事前に、上記通勤災害における通勤の定義を説明し、寄り道をした際に事故を起こした場合(合理的経路を逸脱、中断中の災害等)のリスクを理解させておくことが重要です。

【自転車通勤者が加害者となるリスクの把握】

自転車通勤をする労働者自身がケガをするだけではなく、労働者が加害者となってしまうケースも予想されます。そのため会社は損害賠償についても対策を考えておく必要があります。基本的には当然労働者自身が責任を果たすことになりますが、それが果たせない場合、使用者責任のある会社が責任を追及されるリスクも念頭に入れておく必要があります。会社のリスク管理としては、自転車通勤を許可する条件の一つとして自転車通勤者に対し、民間保険への加入義務を課すなどの対策を講じ、社内規定等に定めておく必要があります。

2.自転車通勤を認める際の許可基準を明確に

上記のように自転車通勤には交通事故等大きな問題が生じてしまうリスクが潜んでいます。その為、自転車通勤に関して、社内に検討チーム等をつくり、労使一体となって協議し「自転車通勤規程」などを作成することをお勧めします。その中で、自転車通勤を認める際の許可基準(民間保険への加入義務を課すこと等)を明確にし、規定化しておく必要があります。また、その他にも自転車通勤をする場合の禁止、遵守事項や自転車通勤の許可取消に関する定めなども規定化しておく必要があります。

3.駐輪場の確保

特に都市部においてはただでさえ問題となっている放置自転車。会社が自転車通勤を認める場合は、駐輪場についての配慮が求められます。会社で駐輪場を用意するのか、または、自転車通勤者本人が確保できた場合のみ許可するのか等を規定化しておくことが必要です。また、自転車通勤に関して、会社側が奨励する場合には、駐輪場確保のサポートも必要かもしれません。

4.通勤手当の取扱い

一般的に、自転車通勤者に対する通勤手当の支給ルールについては特に定めのないケースがほとんどではないでしょうか。自転車通勤の場合、基本的に実費はかかりませんが、自転車の消耗や、雨等で自転車を利用せず公共交通機関を利用して通勤した場合などの費用が発生することが考えられます。これらに見合う金額を支給するのか否か、また、そもそも会社として自転車通勤者に対して通勤手当を支給するのか否か等を考える必要があります。
会社が自転車通勤を認める背景から、自転車通勤者への通勤費に対する考え方、支給基準、会社の方針等を明確にし、賃金規程、自転車通勤規程等に定めておくことが必要だと思われます。

特定社会保険労務士 原田幸治

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